ウインターカップの記事から。
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決して歩みを止めなかった。歩みを止めなければ可能性はきっと見えてくる。信じた可能性は次の目標になり、その目標自体は達成できなかったが、彼女の道は必ず次の道につながる。
女子最終日。
女子決勝、愛知・桜花学園と岐阜・岐阜女子の一戦は、54-49で、岐阜女子がウインターカップ初優勝を決めた。
前半の12点ビハインドから諦めずに勝ち得た、見事な栄冠である。
その決勝戦の舞台に特別な思いを抱いていた選手がいる。桜花学園D脇 梨奈乃選手である。
今シーズンを桜花学園のスタメンとしてスタートさせたが、春の「第43回全関西バスケットボール大会」で左膝の前十字靭帯を断裂してしまう。
そこから始まった過酷なリハビリの日々。
「何で自分がこんなに苦しい思いをしなければならないの?」と折れてしまいそうな気持ちもあったが「それでも勝ちたい……試合に出て、もう一度メインコートで走り回りたい」と、自らを奮い立たせた。
もちろんその間にもチームは進んでいく。
彼女の抜けた穴は決勝戦で16得点を挙げたG粟津 雪乃選手がカバーした。インサイドにはI馬瓜 ステファニー選手もいるが、粟津選手ともに2年生。
脇選手はプレイできない分、後輩たちに“桜花学園のインサイド”とはどういうものかをずっと伝え続けた。
そしてウインターカップ2015。苦しいリハビリを終えて脇選手が帰ってきた。
スタメンの座は粟津選手に譲ったが、それでも彼女が活躍をすることは嬉しく、馬瓜選手を含めたインサイド陣がファウルトラブルに陥れば、すぐに出ていく用意もしていた。
決勝戦でも馬瓜選手が岐阜女子Fディヤイ ファトー選手を守り切れずにファウルを重ねると、コートに立った。
持ち味のパワーと、桜花学園のファンダメンタルでセネガルからの留学生にベストなポジションを取らせなかった。相手に傾いてもおかしくない流れを、ギリギリのところで止めていたのは脇選手のディフェンスだった。
しかし結果は第4ピリオド、残り2分を切ったところからの逆転負け。
涙を流すチームメイトの横で、脇選手は放心状態だった。
「まだ夢を見ているみたいです。言葉にできません……本当に『言葉が出ない』という言葉しかありません」
それでもケガを克服して、決勝戦のコートに戻ってこられたことは前向きの捉えていい。
柔道の山下 泰裕氏がこう言っている――先輩からだけではなく、後輩や子どもからだって学べることはある。教わることが何もないと思った瞬間から、その人の人間としての進歩は止まってしまう。
脇選手もケガの期間に後輩たちへアドバイスをしながら、さまざまなことを学んだ。
「馬瓜にも粟津にもそれぞれ特技があります。それは自分の持ち味とは違うもので、見ていて勉強になります。それは頑張れば自分でもできることでもあるし、次のステージでも活用できると思うんです。彼女たちから学んだことをやっていきたいと思います」
これは間違いなく彼女の“人として”の進歩につながる。
桜花学園の全国大会通算60勝も、高校9冠も、目の前で、その手からすべり落ちた。目標は達成できなかったが、この悔しさは自らが教え、教わった後輩たちが引き継いでくれるはずだ。この敗戦から桜花学園も、そして脇選手もさらに強くなる。