今回、「オールラウンド」という、言葉がひっかかりました。
その事例をふたつご紹介します。
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「ある名将のラストクリスマス」
ウインターカップのみならず、高校バスケットボール界を沸かした名将が、2016年のクリスマスを最後にその舞台から静かに降りる
。
来年3月に定年を迎える女子の山形市立商業の高橋 仁コーチにとって、JX-ENEOSウインターカップ2016はコーチとして最後の全国大会だった。
1回戦、2回戦を突破し、迎えた3回戦の相手は、これまでお世話になってきた井上 眞一コーチ率いる桜花学園。言わずと知れた高校女子バスケットボール界をリードする高校だ。
今年で就任28年目を迎える高橋コーチだが、それ以前は中学校の教師をしていた。当初は男子バスケットボール部を率いていたが、その後、女子バスケットボール部の顧問になったときに「日本一のチームとはどういうチームなのだろう!?」と、井上 眞一コーチに手紙を送り、1週間寝泊りをさせてもらいながら、その神髄を学んだという。
「その井上さんと最後のゲームになったのは何かの縁かな。井上さんからはたくさんのことを学びましたよ。特にディフェンスの厳しさや、ファンダメンタルの大切さ、そして厳しい練習の中で選手が自立するチーム作り。井上さんは指導者として大きな影響を与えてくれた人です」
そこから愛知学泉大学の木村 功コーチを紹介され、当時の共同石油(現:JX-ENEOSサンフラワーズ)を指揮していた中村 和雄氏、長崎・鶴鳴女子(現・鶴鳴学園長崎女子)の山崎 純男コーチなど、あらゆるカテゴリーの日本一のコーチたちと交わり、バスケットボールのコーチングを深めていった。
それでもすぐに結果が出たわけではない。むしろ高校バスケットボール界で山形市立商業の名前が出始めたのは、ここ10年くらいである。
それは周囲から「山形市立商業には独自の色がない」と言われたことがきっかけだった。それまで井上コーチをはじめ、日本一を知るコーチの真似をしていた高橋コーチだったが、ふと立ち止まり、考えた。どうすれば山形県にいる子どもたちに合ったバスケットボールができるのだろうか、と。辿りついたのが、170cmから180cmに満たない選手たちをオールラウンドにプレイさせる、現在の山形市立商業のバスケットの根幹となるスタイルだ。
果たして、大沼 美咲さん(元デンソーアイリス)を中心としたチームで第38回大会(2007年)、第39回大会(2008年)の銅メダルを獲得すると、第42回大会(2011年)には妹の大沼 美琴選手(現:JX-ENEOSサンフラワーズ)を擁したチームでの準優勝へと結実する。
さらに活躍は山形市立商業だけに留まらず、今年度は女子U-18日本代表チームのヘッドコーチとして、11月のFIBA ASIA U-18選手権でチームを準優勝に導いた。
(中略)
日本一にはなれなかったが、チームディフェンスで桜花学園の攻撃を狂わせ、オフェンスでは175cmのE小鷹 実春選手が3Pシュートを決めるなど、オールラウンドにプレイする山形市立商業のバスケットスタイルは、間違いなく多くのファンの心に残り、日本中の多くの指導者が参考にできるところだろう。
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「陸上部には負けていられない」
女子3回戦が行われた12月25日(日)、つまり大阪薫英女学院(大阪)がウインターカップ2016のベスト8進出を決めたその日に、同校の陸上部が都大路を駆け抜け、全国高校駅伝を制した。2年ぶり2度目の栄冠である。折しもバスケット部も全国大会の真っ最中。同じ運動部としては刺激を受けないわけがない。キャプテンのC金田 愛奈選手が言う。
「陸上部の子たちとは3年間同じクラスだったんです。だから優勝を聞いたときはすごいなと思ったし、同じ学校のクラスメイトとして嬉しい反面、運動部で競い合っている立場でいえば、自分たちも負けていられないなって思いました」
だがバスケットボール部が同じように全国制覇を果たすためには、越えなければならない大きな壁がある。高校総体、国体を制し、「高校3冠」に王手をかけている女王・桜花学園だ。16年ぶりの決勝進出をかけて戦う、準決勝の対戦相手である。
結論から言えば、大阪薫英女学院は57-81で敗れ、その壁を越えられなかった。
「前半がすべてでしたね」と安藤 香織コーチが言うように、序盤から桜花学園のディフェンスに押し上げられ、練習してきたことができない。むしろ「国民体育大会が終わった後、しっかりと走りきってからボールを受ける練習をしていたのに、みんながボールへ、ボールへと意識して動いていたので、余計に桜花学園はディナイがしやすかった」とC金田選手が振り返るように、ボールが動かず、人も動かず、得点を積み上げられない。前半を終えた時点での23点ビハインドは、桜花学園を相手にすると致命的でもあった。
しかし後半、スタメンの平均身長が170cmを超えるオールラウンダー集団は開き直った。攻守においてアグレッシブさを取り戻し、最大25点まで開いた得点差を13点差に縮める場面もあったが、最後は桜花学園に押し切られてしまった。
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熊本では長身でも全国には通用しない。長身でもオールラウンダーにならなければならない!
今日も見ました。第7弾です。
http://wintercup2016.japanbasketball.jp/column
男子準々決勝、船橋市立船橋(千葉)は、ベスト4進出を懸けてインターハイ王者の福岡第一と対戦した。
福岡第一と対戦するにあたり、船橋市立船橋の近藤 義行コーチは「相手は王者ですので、まともに戦ったら裏目に出るかなと。開き直って捨てる場所を作ろうと考えて、相手の外角のシュートは捨て、重冨兄弟(C周希、D友希)のペネトレイトだけは絶対に抑えようとディフェンスを組み立てました」と対策を練っていた。
そうしたディフェンスが功を奏し、前半を終えて8点差に食らいつくと、第3ピリオドにはF赤穂 雷太選手がオフェンスリバウンドやアシストで奮闘。その赤穂選手を起点にO野ア 由之選手やL保泉 遼選手が得点を挙げ、後半開始5分で同点に追いついた。
だが、王者・福岡第一の壁は高かった。リバウンドから一瞬でリングまで走り込む鮮やかなブレイクは、分かっていながらもなかなか止められず、速攻を止めてもC重冨周希選手らのスピードとテクニックを生かした1on1でかき回される。さらに福岡第一は、1年生のN松崎 裕樹選手が速攻やドライブなどで躍動。再び流れを引き戻し、10点リードで入った第4ピリオドもそのままリードを保って、最後は79−62でタイムアップとなった。
敗れた船橋市立船橋だったが、試合後、近藤コーチの表情は晴れやかだった。それは、選手たちが、この1年間で心身ともに大きく成長を見せたからである。
振り返れば、春先の船橋市立船橋はチームが噛み合っていなかった。194cmの赤穂選手に、将来を見据えて本格的にポイントガードに挑戦させることになり、得点源を担うのはO野ア選手やL保泉選手といった経験の浅い2年生たち。何より、近藤コーチが常々課題に挙げていたのは主力選手たちの“おとなしさ”、それに伴う気持ちの弱さだ。
「例年は“我”の強い選手たちをまとめてチームを作っていくのですが、今年は逆に、“我”がなさすぎるんです。おっとりしているというか、優しすぎるというか…。とにかく真面目で、おとなしい選手ばかりです」と、近藤コーチ自身、いつもと違うチームカラーに戸惑いを隠せなかった。実際、春先の交歓大会では、勝負どころで気持ちの弱さが露呈し、接戦を落とすことも多々あったという。
だが、船橋市立船橋は徐々に変わっていった。赤穂選手のガード化により新しいオフェンスシステムを導入し、チームがなかなか噛み合わない危機感があったからこそ、「例年の2倍練習して、2倍試合をこなしてきました」と近藤コーチ。そうした練習量が、選手たちの自信となり、技術の面だけでなく、メンタルの面の成長も促したのだ。
その中でも、今年頭角を現し、チームに欠かせない大黒柱となったのが3年生のセンターD田村 伊織選手だ。肉体改造を図り、体重を10キロ落とした田村選手は、走り合いのラリーにもついていけるようになった。そうしてプレイの幅が広がったことで、周りを見て声をかける役目も田村選手が担えるように。「田村伊織が声を出すと、チームも盛り上がる。あの子がこのチームの“おとなしさ”を打開してくれました」と、近藤コーチも高く評価する。
チームとして大きく成長した船橋市立船橋は、結果的に関東大会優勝、インターハイとウインターカップでベスト8という結果を残した。いずれも簡単な試合はなく、関東大会の決勝(vs 正智深谷)は6点差、インターハイ3回戦(vs 光泉)は1点差の接戦を制するなど、力の限りを尽くして積み上げてきた誇れる結果だ。
近藤コーチは、「彼らの持っている力やキャリアから考えれば、最高の結果を出してくれたと思います。厳しい練習にもよくついてきてくれました」と、この1年間苦労を乗り越えてきた選手たちを、手放しに称えた。
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「声を出すこと」の大切さ! センターでも走りあいについて行けること!
今日も見ました。第6弾です。
http://wintercup2016.japanbasketball.jp/column
男子準々決勝、船橋市立船橋(千葉)は、ベスト4進出を懸けてインターハイ王者の福岡第一と対戦した。
福岡第一と対戦するにあたり、船橋市立船橋の近藤 義行コーチは「相手は王者ですので、まともに戦ったら裏目に出るかなと。開き直って捨てる場所を作ろうと考えて、相手の外角のシュートは捨て、重冨兄弟(C周希、D友希)のペネトレイトだけは絶対に抑えようとディフェンスを組み立てました」と対策を練っていた。
そうしたディフェンスが功を奏し、前半を終えて8点差に食らいつくと、第3ピリオドにはF赤穂 雷太選手がオフェンスリバウンドやアシストで奮闘。その赤穂選手を起点にO野ア 由之選手やL保泉 遼選手が得点を挙げ、後半開始5分で同点に追いついた。
だが、王者・福岡第一の壁は高かった。リバウンドから一瞬でリングまで走り込む鮮やかなブレイクは、分かっていながらもなかなか止められず、速攻を止めてもC重冨周希選手らのスピードとテクニックを生かした1on1でかき回される。さらに福岡第一は、1年生のN松崎 裕樹選手が速攻やドライブなどで躍動。再び流れを引き戻し、10点リードで入った第4ピリオドもそのままリードを保って、最後は79−62でタイムアップとなった。
敗れた船橋市立船橋だったが、試合後、近藤コーチの表情は晴れやかだった。それは、選手たちが、この1年間で心身ともに大きく成長を見せたからである。
振り返れば、春先の船橋市立船橋はチームが噛み合っていなかった。194cmの赤穂選手に、将来を見据えて本格的にポイントガードに挑戦させることになり、得点源を担うのはO野ア選手やL保泉選手といった経験の浅い2年生たち。何より、近藤コーチが常々課題に挙げていたのは主力選手たちの“おとなしさ”、それに伴う気持ちの弱さだ。
「例年は“我”の強い選手たちをまとめてチームを作っていくのですが、今年は逆に、“我”がなさすぎるんです。おっとりしているというか、優しすぎるというか…。とにかく真面目で、おとなしい選手ばかりです」と、近藤コーチ自身、いつもと違うチームカラーに戸惑いを隠せなかった。実際、春先の交歓大会では、勝負どころで気持ちの弱さが露呈し、接戦を落とすことも多々あったという。
だが、船橋市立船橋は徐々に変わっていった。赤穂選手のガード化により新しいオフェンスシステムを導入し、チームがなかなか噛み合わない危機感があったからこそ、「例年の2倍練習して、2倍試合をこなしてきました」と近藤コーチ。そうした練習量が、選手たちの自信となり、技術の面だけでなく、メンタルの面の成長も促したのだ。
その中でも、今年頭角を現し、チームに欠かせない大黒柱となったのが3年生のセンターD田村 伊織選手だ。肉体改造を図り、体重を10キロ落とした田村選手は、走り合いのラリーにもついていけるようになった。そうしてプレイの幅が広がったことで、周りを見て声をかける役目も田村選手が担えるように。「田村伊織が声を出すと、チームも盛り上がる。あの子がこのチームの“おとなしさ”を打開してくれました」と、近藤コーチも高く評価する。
チームとして大きく成長した船橋市立船橋は、結果的に関東大会優勝、インターハイとウインターカップでベスト8という結果を残した。いずれも簡単な試合はなく、関東大会の決勝(vs 正智深谷)は6点差、インターハイ3回戦(vs 光泉)は1点差の接戦を制するなど、力の限りを尽くして積み上げてきた誇れる結果だ。
近藤コーチは、「彼らの持っている力やキャリアから考えれば、最高の結果を出してくれたと思います。厳しい練習にもよくついてきてくれました」と、この1年間苦労を乗り越えてきた選手たちを、手放しに称えた。
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「声を出すこと」の大切さ! センターでも走りあいについて行けること!
第6弾です。
「己を貫いた美しき敗者たち」
http://wintercup2016.japanbasketball.jp/column/13
今年3月に亡くなったサッカー界のスーパースター、ヨハン・クライフは「勝利は貪欲に、少々汚くても構わないが、敗れるときは美しく」を信条にしていた。
ウインターカップが文字どおり冬の大会、つまり12月開催とった第19回大会(1988年)以来の出場となった浜松開誠館(静岡)は、意図したわけではないだろうが、クライフの信条に沿ったような戦い方を貫いた。
目標のベスト8まで勝ち進み、メインコートをかけて戦ったのは大阪薫英女学院。近畿の名門で、高校総体ベスト4。女子U-18日本代表の原春季ら、タレントも豊富な強豪校だ。一方の浜松開誠館は、全国中学校バスケットボール大会や都道府県対抗ジュニアバスケットボール大会などの経験者はいるものの、代表レベルの選手がいるわけではない。その候補に名前が挙がることさえない。それでも泥臭く勝ち上がり、美しく敗れた。
試合を振り返って、浜松開誠館のC陽本 麻優選手は「レベルが全然違いました。高さも、フィジカルも……フィジカルは私たちもインターハイ以降鍛えてきましたが、それを上回っていました」と脱帽する。
試合前から体格の違いは明らかだった。ゲームが始まっても、シュートチェックの上からシュートを打たれ、それが外れても、ボックスアウトの後ろからリバウンドを取られてしまう。それでも浜松開誠館の選手たちは体を張り続け、足を動かし、ボールに食らいついていった。
自分たちの得点が決まらず、相手に決められる一方的な展開。第1ピリオドを終えて6-25と大差をつけられ、心が折れてもおかしくなかったが、彼女たちはそうならなかった。
「自分たちは粘り強いチームだと言われているので、最後まで粘り強くやりきりろうという思いがありました」
C陽本選手はそのときの心境をそう語る。
第2ピリオド、第3ピリオドになると、アグレッシブさを取り戻した浜松開誠館がディフェンスでプレッシャーをかけ、三島 正敬コーチが「オフェンスを少し変えました。普通に1対1をしても守られるので、ずれを作るようにスクリーンを使った」作戦で活路を見出した。決して無理なアタックはせず、しかし積極的にゴールを狙い、状況をよく見てチームメイトにアシストをする。パスを受けた選手がまた状況を素早く判断し、シュートをねじ込む。
そうして、第3ピリオドの途中には10点差にまで詰め寄ったが、再び大阪薫英女学院にギアを上げられ、高さを生かしたオフェンスでジリジリと離されていった。第4ピリオドになると浜松開誠館の足が動かなくなり、リバウンドも飛べず、苦しい展開となった――。
最終スコアは44-71。しかしコーチも選手も表情は晴れやかだった。
「負けはしましたけど、最後までディフェンスで粘って、オフェンスもリングに向かっていったので、自分たちのバスケットを貫くことはできたと思います」と、三島コーチがそう言えば、陽本選手も「第1ピリオドは自分たちのバスケットができなかったけど、途中からはベンチも楽しんで、全員で自分たちのバスケットができました。目標だったベスト8まで来られたことが、自分たちの誇りです」と胸を張る。
もちろん悔しさがないと言えばうそになる。だがその悔しさはスタメンに名を連ねた3人の下級生が、来年度以降に晴らしてくれるはずだ。
自分たちのバスケットを貫くからこそ、美しく散ることができる。浜松開誠館は、敗れてもなお拍手を送りたくなる、美しき敗者だった――。
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最後まで、全力を出し切ることができれば、悔いはない! そして美しい。
第5弾です。
「失われた”ひたむきさ”を呼び起こした男」
http://wintercup2016.japanbasketball.jp/column/08
男子1回戦、初戦を迎えた福岡大学附属大濠(福岡)が、美濃加茂(岐阜)を相手に84-62で勝利した。
そう書くと、古くから高校バスケを見ている人は「妥当な結果だろう」と思うかもしれない。
しかし、そうではない。なぜなら福岡大学附属大濠はここ2年、全国大会で勝利を挙げていなかったからだ。つまり今日の勝利は、2014年12月28日以来、726日ぶりの勝利なのである。
試合後、チームを率いる片峯 聡太コーチも一安心といった様子で、ゲームを振り返る。
「選手たちにはいつも通りやろうと言っていましたが、東京体育館に入ると彼らの中にどこかで不安があったのだと思います。加えて、思いがけなくD西田優大が第1ピリオドでファウルを連続して犯してしまい、ベンチに下がらざるをえなくなって、展開が重たくなってしまいました。でもまさにそのときが我々のやってきたことを試されるときだと思いました。鍵冨太雅や立野友也がきちんと繋いでくれて、ゲームをコントロールしてくれました」
福岡大学附属大濠が2年ぶりに全国大会で勝利を挙げた最も大きな要因は、E立野友也選手やN井上 宗一郎選手ら、バックアップ陣が序盤の重たい空気を一変させたところにある。片峯コーチもそれを認めている。
特にE立野選手について、片峯コーチはこう続ける。
「1年生の頃からシュートが上手でしたが、それ以外にもリバウンドやルーズボールでも頑張れる子。だから常にベンチにいてほしい存在だし、彼のような選手をシックスマンに置けるのは安心感につながります」
その安心感から、高校総体に敗れて以降、片峯コーチはE立野選手を”練習キャプテン”に任命した。ゲームキャプテンはあくまでもC鍵冨選手だが、彼の負担を軽減させる意味でも、精神的な柱をE立野選手にしたのだ。それがチームを変えるきっかけとなる。
E立野選手はこれまで2年間、チームが勝てなかった理由をこう断言する。
「気持ちです。メンバーが揃っている分、ひたむきにプレイしていなかったり、泥臭いところから目を背けていたように思います。そこがダメだと思って、自分が練習キャプテンに任命されてからは、そこを率先的に自分が表現して、みんなに浸透させようとしてきました」
その言葉の通り、美濃加茂戦でもベンチから出てくると、持ち味である思い切りのよいシュートとともに、チームを鼓舞する声を出し続けていた。それを機に流れがガラリと変わったのは言うまでもない。
強豪校ではない太宰府市立学業院中学校時代を過ごしたE立野選手は、「それでもずっと日本一になってみたいという思いを抱えていたので、親に無理を言って、大濠に入れてもらいました。だから誰にも負けたくないし、絶対に日本一になってやるという思いは、このウインターカップで誰にも負けていません」
この熱い思いこそが、これまでの福岡大学附属大濠に足りなかったところであり、E立野選手がチームに吹き込んだ、勝利に欠かせないエッセンスでもあったのだ。
2年ぶりの勝利に「ホッとした」というE立野選手だが、「チームとしても、個人としてもまだまだです」と気を緩めてはいない。
「でも今の大濠は、大会を通じてどんどん成長できるチームだと思います。気を引き締めて、明日からまた戦っていきたい」
この2年間もがき続けた福岡大学附属大濠にとって、この1勝は新たに生まれ変わるための確かな一歩である。それを引き出したのは、中学時代から名を馳せ、高校生年代の日本代表に名を連ねるような有名選手ではなく、日本一に対して誰よりもひたむきな思いを持ち続け、泥臭いプレイを厭わない、福岡大学附属大濠が誇る無名のシューターだった。
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無名のシックスマンの頑張りに拍手!
第4弾です。
http://wintercup2016.japanbasketball.jp/column/07
「初出場は走り合いの真っ向勝負!」
秋田県立平成高校――。ウインターカップ初出場ながら、この校名にピンときた高校バスケファンもいるだろう。
全国大会で58回の優勝を誇る名門・県立能代工業が、インターハイは48年ぶり、ウインターカップは46年ぶりに出場を逃したことが話題になった今年、代わりに全国への切符を掴んだのが県立平成だった。
横手市にある県立平成は、在校生徒300名程度の小さな公立校。もともと全く強豪ではないところから、県立能代工業出身の佐々木 信吾コーチが2008年に赴任し、厳しい練習を積み重ねてレベルアップしてきた。そしてこの夏、県立能代工業を破って初めて全国への扉を開いたのだ。
しかしそのインターハイは、安城学園(愛知)に敗れて“全国初勝利”とはならなかった。だからこそ県立平成は、秋田県内で勝つだけにとどまらず、全国初勝利、そしてその先へ――そんな思いでウインターカップに乗り込んできた。
迎えた男子1回戦、初戦の相手となった長崎・県立佐世保工業も、奇しくもウインターカップ初出場。その県立佐世保工業は、夏の県予選(vs 長崎西)で39点差の大敗を喫しながら、冬にかけて急成長を遂げ、悲願の全国出場を勝ち取ったチームだ。そんな両チームの“全国初勝利”を懸けた戦いを見守ろうと、Dコートのあるサブアリーナには入場制限がかかるほど多くの応援団とバスケットボールファンが詰めかけた。
両チームともに、小柄だがディフェンスからの速攻が持ち味。それゆえ予想に違わず、試合は目にも止まらぬ走り合いとなった。前半を終えた時点で、県立平成が48点、県立佐世保工業が47点と、ハイスコアがその表れだ。そのまま第3ピリオドになっても全く点差が離れず、県立平成が2点リードして入った最終ピリオドも白熱したシーソーゲームに。激しいぶつかり合いが続き、第4ピリオド残り5分には県立佐世保工業M立石 宝龍選手が、残り3分半には県立平成C三浦 杏太選手がそれぞれ退場するほどだった。
勝負の分かれ目となったのは、試合の最終盤。残り1分、必死にリバウンドを弾き、ルーズボールに飛び込んだ県立平成がマイボールにすると、このスローインからゴール下に飛び込んだG内藤 達也選手が得点して2点先行。逆に県立佐世保工業は、焦りも見えてターンオーバーを犯し、そのまま85−83で試合終了となった。
試合後、敗れた県立佐世保工業の水戸 義久コーチが「選手たちは全力でよく頑張ってくれました。最後は、自分に運がなかったのかもしれません…」と言うほど、最後の最後までどちらに勝負が転ぶか分からない試合だった。
シックススマンながら、この試合で12得点を挙げた県立平成のG内藤 達也選手は言う。
「自分はシックススマンという役割に誇りを持って、試合の流れを変えようと意識していました。リバウンドとルーズボールは毎日徹底してきた部分で、今日も前半はなかなか取り切れませんでしたが、最後の大事な場面で全員ボールに飛び込めたことが、勝ちに結びついたと思います」
実際、リバウンド数では県立佐世保工業の35本に対し、県立平成は50本。終始大接戦で、最終的にたった2点差で明暗が分かれた試合だったが、このボールに対する執着心こそが、勝利の女神を微笑ませたのかもしれない。日頃の練習の成果を発揮した末の、嬉しい全国初勝利となった。
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平成が新たな歴史を作っていくのか、能代工業が復活するのか、来年以降に注目です。
現地レポートからの引用第3弾です。
「13人で受け継いだ”カタリナバスケ”」
http://wintercup2016.japanbasketball.jp/column/05
毎年、その黄色いユニフォームに多くの観客が魅了されてきた。サイズはないものの、すばしっこいディフェンスやピシャリと決まる3Pシュート、鮮やかなボールハンドリングで相手を翻弄する――。愛媛県の聖カタリナ学園は、そんなバスケットボールで知られる強豪チームだ。
ウインターカップでも2012年に準優勝、翌13年・14年は3位、15年は4位と、近年ベスト4に定着し、好成績を挙げてきた。だが、そんな聖カタリナ学園をアクシデントが襲ったのは今年6月のこと。女子U-18日本代表候補にも選ばれていたC江良 萌香選手が、左膝の大ケガに見舞われたのだ。エースを欠く中で挑んだインターハイ、ベスト16という結果は、ここ数年上位進出が常だった聖カタリナ学園にとって、納得できるものではなかった。
雪辱を誓い、迎えたウインターカップ。初戦の県立長崎西戦も大接戦となったが、4点差でなんとか勝ち切った。この試合、インターハイでも活躍が目立ったルーキーM梅木 千夏選手がチームハイの20得点を挙げ、夏からのさらなるレベルアップを証明。また何より、長く戦線離脱していた江良選手が待望の復帰を果たしたことは、心身の面で、チームのさらなる追い風となった。
ようやく役者が揃った状況で、2回戦へと駒を進めた聖カタリナ学園。だが相手は、それ以上の強敵だった。それが関東大会でも優勝を果たし、東京都予選でも圧倒的な強さを見せた八雲学園だ。
この八雲学園、インターハイは桜花学園(愛知)に敗れてベスト16に終わったものの、その強さは今シーズンかなり注目されていた。C佐藤 由璃果選手(176cm)、D奥山 理々嘉選手(180cm)、F吉田 舞衣選手(176cm)の“ビッグ3”のオフェンス能力は全国屈指で、さらに日頃の練習でディフェンスと走力を鍛え上げ、より隙のないチームへと成長していたのだ。
その八雲学園に対して聖カタリナ学園は、試合の序盤こそディフェンスから速い展開に持ち込み互角の勝負を演じたが、徐々にリードを引き離されてしまう。八雲学園の高さがボディブローのように聖カタリナ学園を苦しめ、第3ピリオド終了時点で27点差と、大きく点差が開いた。
それでも、聖カタリナ学園に“諦める”という選択肢はなかった。オールコートで必死のディフェンスを見せ、ダブルチームでボールを奪い、外れても外れても、シュートを狙い続ける。どんなに点差が離れても、その闘志が切れることはない。だが八雲学園も、点の取り合いなら一歩も引かず、むしろリバウンドから速攻に走って確実に得点を重ねていく。最終的に57-89でタイムアップ。聖カタリナ学園の奮闘も、ここまでとなった。
「ディフェンスで抑えたいポイントをうまく抑えられず、オフェンスでも『攻めなきゃ』という気持ちが空回りしてしまった部分がありました。そこで冷静に、あともう1本パスが出せれば…」と、聖カタリナ学園・後藤 良太コーチは反省の弁。だが、この1年戦ってきた3年生のことを聞けば、「今試合に出ている3年生は、ほとんどがBチームから上がってきた選手たち。スター選手は誰もいないけれど、今までの偉大な先輩たちの伝統を受け継ごうと、よく頑張ってくれたと思います」と、選手たちを称える。
また、キャプテンの江良選手も、溢れる涙をぬぐいながらこう話す。
「ケガでみんなに迷惑をかけ、悔いの残る1年でした。でも3年生13人で、たくさん話し合って、チームを良くしようと考え続けてきた1年でもありました。そういう姿勢を後輩たちが見て、これからも先輩たちのような“カタリナバスケ”を引き継いでいってほしいです」
追い求めた結果は出なかった。だがその戦いぶりが、これまでの聖カタリナ学園の名に恥じないものであったことは間違いない。さまざまな苦労を乗り越えてきた3年生たちの背中を見て、聖カタリナ学園の伝統は後輩たちに受け継がれていくだろう。その黄色いユニフォームが、再びメインコートを駆け回るその日まで――。
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Bチームから上がってきた、無名軍団。小さくても最後まであきらめずに懸命に駆け回る姿は素晴らしい。
第2弾です。
http://wintercup2016.japanbasketball.jp/column/04
「欠けていた”自分たちらしさ”」
大会初日、男子1回戦の中でも注目カードとなったのが、前年王者・明成(宮城)と尽誠学園(香川)の対戦だ。厳しい練習を積み重ね、ともに毎年好チームを作り上げることで知られる強豪チーム。明成は八村 塁選手(ゴンザガ大)、尽誠学園は渡邊 雄太選手(ジョージ・ワシントン大)という、現在アメリカNCAAで活躍するスター選手を輩出したことでも、その名を知られているだろう。付け加えれば、八村 塁選手は2013〜15年にウインターカップ3連覇、渡邊雄太選手は2011〜12年に2年連続準優勝を成し遂げたときの絶対的エースだ。
そんな明成と尽誠学園、両チームの今年の歩みを振り返れば、少し似たところがあるかもしれない。夏のインターハイは、ともに2回戦敗退。偉大な結果を残してきた卒業生たちがいるからこそ、下位回戦での敗北は苦く、重くのしかかった。そして敗北の反省をもとに試行錯誤しながらチームを再構築し、“この冬こそ”の思いで今大会に臨んだのだ。
そんな意地と意地とのぶつかり合いとあって、迎えたウインターカップ1回戦は予想に違わず熱戦になった。その中で主導権を握ったのは、尽誠学園。キャプテンのC松本 雅樹選手を筆頭に、次々と力強いドライブを仕掛け、シュートをねじこみファウルをもらう。「明成がディフェンスで圧をかけてくるのは分かっていたので、『逃げずに向かって行け』と言いました」という色摩 拓也コーチの指示を、まさに選手たちがコートで体現した。
一方の明成は、普段どおりの戦いができず、焦りから来る不要なミスや中途半端なプレイが目立った。要所でシュートを決めて点数的には食らいついたものの、後手に回ってしまい、結局劣勢を逆転できずに68‐81でタイムアップ。3連覇中の明成が初戦で姿を消す形となり、試合後、キャプテンのC清水 翔太選手は「先輩たちに申し訳ない気持ちです…」と言葉を絞り出した。
試合後、明成・佐藤 久夫コーチはこう振り返る。「もう少し、自分たちの力を発揮できていたら…と思いますが、なぜそれができないかと考えれば、湧き出てくる自信のなさが原因。それを練習の中で払拭できず、ここまでしかチームを作り上げられなかったのは、すべて私の責任です」
また、本来の力が出せなかったことだけでなく、最大の敗因となったのが“球際の強さ”の差だ。「尽誠学園は立派でした。ルーズボールに何回も何回も飛び込んで…。明成の選手も頑張ってはいたけれど、取り切れず、その差が最後に出たと思います。ルーズボールに負けたり、体を張ったバスケットボールがどこかにいってしまったり、“明成らしさ”が欠けていました」と佐藤コーチ。
尽誠学園は、力強さ、球際の強さで相手を上回り、見事自分たちの力を発揮して勝利を挙げた。そんな姿を目の当たりにし、きっと明成の選手たちが改めて気付かされたこともあるだろう。主力選手には2年生以下も多い。挫折から這い上がり、“明成らしさ”を取り戻せるかどうかは、これからの自分たち次第だ。
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球際の強さ、ルーズボールへの執念! 泥臭くくらいつくような気持ちが必要ということでしょう。
ウインターカップが開催されています。
この公式ホームページの「現地レポート」から、心に引っかかった記事を引用させていただきます。
http://wintercup2016.japanbasketball.jp/column/01
「楽しく粘って、ウインターカップ初勝利!」
初めてのウインターカップ、初めての東京体育館、そして初めての勝利――豊富なキャリアがなくても、相手を凌駕するサイズがなくても、自分たちのバスケットボールを信じて貫けば、全国的に有名な強豪校を倒すこともできる。そんなゲームだった。
三重・県立いなべ総合学園が、福井・県立足羽を87-84で下し、2回戦進出を決めた。
序盤から鍛えられたディフェンスとルーズボールへの執着、弱みであるリバウンドでさえも相手のビッグマンに対して2人、3人で詰め寄り、ボールに食らいつく。牙をむく県立いなべ総合学園に対して、県立足羽は気持ちが引いていたようにも見える。それが前半8点リードで折り返した要因だろう。
しかし県立足羽もウインターカップでメダルを獲得したことのある強豪校。女子U-18日本代表のメンバーもいる。後半、怒涛の反撃で逆転すると、県立いなべ総合学園の足もボールも止まり始めた。
このまま終わってしまうのか……
しかし、チームを率いる桜井 則之コーチが「今の3年生には不思議な力がある。粘り強いというか、最後には勝ち切る力がある」と言うとおり、粘り強くついていき、第4ピリオドの終盤、ついに同点に追いついた。
「彼女たちはあまり動じないんです。委縮もしないけど、調子にも乗らない。言葉としてはおかしいけど、“情緒安定”というか、しっかりしているんです」
そのため、桜井コーチはプレイの選択を選手自身に任せている。途中でディフェンスをマンツーマンからゾーンに変えるけれども、そのタイミングはキミたちに任せるよ、と。それは決して簡単なことではない。選手の自立を促すといえばかっこよいが、それをするためにはどんな状況であっても、ゲームの流れを全員が把握し、共有していなければならない。それを経験の少ない選手に任せるリスクはある。それでも桜井コーチは選手たちを信じ、その策を取った。
選手のその期待に応える。キャプテンのC蛭川 文香選手は後半の追い上げについて、こう言っている。
「気持ちと、コートにいる選手もベンチメンバーもみんなが声を掛け合いました。特にディフェンスで声が出て、流れを作れたと思います」
一人ひとりの経験は少なくても、それがひとつの塊になれば逆転への流れも作り出せるというわけだ。
さらに言えば、粘るためのスタミナも求められる。それがなければ正しい判断も、正しいプレイもできない。その点については、高校総体での反省が生かされた。
「高校総体で東京成徳大学に敗れたとき、第4ピリオドで引き離されたんです。東京成徳大学には最後に仕掛けられる脚があったんです。だから今大会に向けて、第4ピリオドで勝負ができるように練習をしてきました」(桜井コーチ)
延長戦に入ると、追いつかれた県立足羽に県立いなべ総合学園の勢いを止めるだけの力は残されていなかった。それは序盤からしっかりとプレッシャーをかけた彼女たちのディフェンスがボディーブローとなっていた証拠である。
「すごいですよね……すごいです。すごいと思います。すごい、すごい」
初出場で、しかも格上と見ていた相手に粘り勝ちし、「すごい」を連発した桜井コーチに対して、蛭川選手は笑顔で言う。
「最初は緊張したけど、時間が経つにつれて楽しくできました。延長戦ですか? 楽しかったです」
初めてのウインターカップ、初めての東京体育館にも動じず、むしろ自分たちのバスケットを楽しめた県立いなべ総合学園は、目標のベスト8まで粘り強く、走り続ける。
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最後まで走りぬく「脚」の大切さ! これは鍛錬でなんとか身につく。
しかし、「精神力」は難しい。