ウインターカップ転載4-イマケン

  • 2017年12月29日(金)

今日も勝手に転載です。
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和してなお輝く

アメリカンフットボールの名コーチがこんなことを言っていた。
「私は11人のベストな選手とではなく、11人でベストになるチームでプレイしている」

いくら才能豊かなタレントを多く揃えようとも、それがチームとして機能しなければ、宝の持ち腐れである。いや、宝のひとつひとつは輝くかもしれないが、その価値は個別に売却したコミックと同じである。全巻一揃えししたものに比べると、その価値は単品以上のそれにはならない。

男子準々決勝、明成(高校総体2位)に、67-84で敗れた県立広島皆実(広島)は5人でベストになるチームを作って、戦ってきた。男子U16日本代表候補のI三谷 桂司朗選手もいるが、彼の力だけで勝ち上がってきたわけではない。むろん下級生のころから主力としてチームを引っ張ってきた4人の3年生の力だけでもない。誰かひとりの才能に頼っていたら、県立広島皆実はメインコートに立つことさえできなかっただろう。

「(かつては)私のなかにも地方だからとか、公立だからという言い訳があったと思うんです。でも今は、確かに私立とは環境が違いますけど、地元の選手を丁寧に磨いていけば戦えるんだと、今大会で証明できたと思います。チーム作りとしては、選手たちに答えを与えるのではなく、彼らに考えさせるようにして、それに僕が味をつけていくことで、随所で彼らが判断する要素になったかなと思います。部活動や日常生活のなかで種を蒔いていって、あとは方向づけをしてやっていくと主体的な選手になってくれるのかなと」

選手育成、チーム作りの根幹を県立広島皆実の藤井 貴康コーチはそう語る。

公立高校は、全国から有望な選手をリクルートできる私立高校と異なり、原則的に所在地の都道府県内の高校生で形成される。むろん私立高校には私立高校の難しさもあるのだが、長身の留学生など、自分が考えるバスケットボールスタイルに合った選手を求めることはできない。県立広島皆実もまた、そんな公立高校のひとつである。

昨年のウインターカップではメインコートの一歩手前で優勝した福岡第一(福岡)に敗れたが、今年は高校総体でベスト8、今大会もきっちりと勝ち上がってきた。

キャプテンのC原未 来斗選手は今年のチームの強さについて、「今までと違うのは全員が縦も横も関係なく、練習中から競争し合って、コミュニケーションを取り合って、メンバーに入っていない多くの選手たちもチームが勝つために戦った必死さが一番の強みかなと思います」と言及する。

愛媛国体は中国ブロック予選で敗れて出場することができなかった。しかしその悔しさがあったからこそ、基礎から見直し、夏よりもさらに強くなって今大会に戻ってくることができた。

高校総体越えを目指した今大会の準々決勝では、明成を相手に素早いトランジションで粘り強く戦い、前半は5点のビハインドに止めている。しかし後半になると、攻守のギアを一段階上げた明成についていけず、その壁を乗り越えることはできなかった。

「前半から自分たちの持ち味である速い展開のバスケットができたのですが、一試合を通して相手のインサイドを守りきれなかったことがこの差になったのかなと思います」
原選手は敗因をそう語る。

それでも、同じくベスト8の県立厚木東とともに、古くからの名門校ではない、普通の公立高校がメインコートにまで勝ち上がったことは県立広島皆実の選手にとって、大きな財産になるはずだ。

「皆実に入学したときから、この舞台でバスケットをすることを目標にやってきて、ようやく立つことができました。負けてはしまったんですけど、40分間、皆実らしい、背の小さいチームでも頑張れることを見せることができたかなと思います」

メインコートの感想を胸を張って話す原選手だからこそ、三谷選手ら後を引き継ぐ後輩たちへのエールも忘れない。
「来年は、主力でやってきた自分たち3年生が抜けて戦力は多少下がるかもしれませんが、三谷桂司朗や山口由稀が残るので、彼らを中心にしっかりとチームを作って、今度はメインコートで勝ってほしいと思います」

私立だとか、公立だとか、そんな区別は必要ないのかもしれない。
大切なのはチームに集う選手それぞれがそれぞれの力を信じ、磨き合い、余すことなくその力を出しきることだ。そうすればおのずと個の力はチームの力へと昇華していく。

もう追いつけない。そうわかる時間になっても、彼らは最後まで自分たちのバスケットボールを貫いた。5人でベストになるチームを築いてきた県立広島皆実は、和してなお輝くチームだった。
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地方でも、公立でも、背が小さくても、ここまで来れる。